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〈新時代宝箱〉№0018 「新しい生活様式と障害者の生活」令和2年2020年6月8日(月)

会長 伊藤 和男   


政府は、専門家会議の意向を受けて、新型コロナウイルス感染防止のための「新しい生活様式」を国民に呼びかけた。
その内容を見ると、障害者の生活に大きな影響を与えることが予想される。既に視覚障害者とガイド者が外出のためにともに歩く同行援護や、聴覚障害者が相手の口の動きを見て意思疎通を図るコミュニケーションにおいて問題が指摘されている。

そもそも障害者は、その障害のゆえに健常者に比較して種々の面で生活上の困難を抱えている。
障害者は、その生活上の困難を克服するためにリハビリテーションによって失われた能力以外の機能を強化したり、戻らない機能を代替えする代行機器を使用したり、また直接支援者の手を借りたりして日常生活を送っている。
つまり、このように障害者の生活は、他の人々との緊密な関りを通して行われることが多い。

今回提唱された「新しい生活様式」は、日頃からその障害ゆえに支援者の人々と密接な関係を持って生活している障害者の暮らしを大きく変更しなければならないような内容を含んでいると思われる。
そこで、私は、この「新しい生活様式」を実践するために、その基本的な「感染防止の3つの基本」について、障害者が暮らして行く際にどのように実現できるかを視覚障害者を中心に考えてみたいと思う。

「感染防止の3つの基本」には、3密(密閉・密集・密接)を防ぐこと、身体的距離(できるだけ1~2㍍空けるソーシャルディスタンス)の確保、マスクの着用、手洗いや嗽の励行が挙げられている。
これらの項目は、感染予防の原則であるから、障害者にあっても感染症を予防するためには絶対に守らなければならない。
ところが前述したように障害者は支援者と接触する機会が多い。そのために障害者自身も支援者も、いわゆるソーシャルジスタンスを取ることが難しい。マスクの着用や手洗い・うがいは、当事者自身が生活態度を厳しくチェックし衛生的な生活を心がけることで障害の有無に関係なくできる。
しかし、社会的距離を取ることは、特に視覚障害者にとっては最も困難な問題である。

もともと視覚障害者は、視覚情報を得にくいため、聴覚や触覚情報を用いて生活している。
とりわけ、全く見えない全盲者においては、こうした感覚刺激を受け取る状況が阻害されれば生活上行動することができない。
視覚障害者は、学習をするにも社会生活を行うにも全て事物に直接手で触れてその実態を知り、理解し認識することができる。
また人との関係でも触れ合うことが親密感を増し、よりよい人間関係を構築するのに役立っている。

このように視覚障害者は、基本的にソーシャルディスタンスを含めて感染防止の三つの基本の対策を取らなければならないコロナ対策の「新しい生活様式」をそのまま適用することが難しい。
とはいえ、完全にウイルスの感染の危険がなくならないというコロナ時代に、感染予防の専門家が勧める対策を行うことは必須である。

そこで、私は、これからの視覚障害者の生活において、次のようなことを提案したいと考えている。
3密については、極力密にならないように実践することとし、それが不可能な場合、例えばガイドとともに歩く同行援護や学校などでの学習場面で教師と接触せざるを得ない際には、その前後に手洗いもしくは消毒を入念に行うよう徹底する。
もとよりどんなときにもマスクの着用は厳守する必要がある。

私は、以上の対策を取ることができれば障害者の感染のリスクは大幅に減らすことができると確信する。
ただ、ここで問題となるのは、障害者自身が手洗いや手の消毒を頻繁にいつでもどこでも励行できるかという問題である。
しかし、これができなければ私たち視覚障害者はこれから生きて行けない。
そのことを肝にめいじて私たちは、常にマスクを着用し、出先であっても手を消毒できるジェルやシートを持ち歩く習慣を持つようすべきである。
そして、多少接触してもコロナを移さないことを社会の人々に理解してもらうよう努めていきたいと考える。

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