ここから本文です。

前の新時代宝箱次の新時代宝箱     

〈新時代宝箱〉№0010 「読書困難者と読書バリアフリー法」 令和元年2019年10月4日(金)

会長 伊藤 和男   


本年6月28日に、いわゆる「読書バリアフリー法」が交付され、即日施行された。
この法律は、自由に読書を楽しむことのできない人たちが長年にわたって待ち望み、強く要望してきたものである。
国際的には、2013年6月28日にモロッコのマラケシュにおいて、著作権等に関する国際条約(マラケシュ条約)が採択されたが、わが国ではこの条約を2018年4月25日に批准し、このたび国内法の整備にあたってその精神を具体化する法制度として成立させることになった。

この法律の正式名は、『視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律』という。4章18条・付則からなるこの法律は、 通常の書籍にアクセスしにくい視覚障害者等に対して、「視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与する(第1条)」ことを目的としている。

では、自由に読書を楽しむことができない人とはどんな人であろうか。
この法律の目的では、『視覚障害者等』と少し曖昧な表現をしているが、このことについて第2条では、「視覚障害者等」とは、視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍(雑誌、新聞その他の刊行物を含む。)について、視覚による表現の認識が困難な者をいう。」と明確に提示している。
これまで読書困難者は、文字が見えないために読むことができない視覚障害者がよく知られていたが、最近では、この定義にあるように発達障害者や上肢の障害が重くページをめくることのできない肢体障害者等も読書困難者であることが認識されるようになった。

発達障害には様々なタイプがあるが、特にディスレクシア(読字障害者)の読書困難がよく知られている。
ディスレクシアの人たちは、文字を見ることはできるが、その文字の意味理解に困難があり、通常のプリントではそこに提示されている文章を理解することが極めて難しいのである。

この法律では、こうした読書困難者(プリント・ディスアビリティともいう)に対して種々の施策を講じ、健常者と同様の読書環境を提供できるようにするために、国や地方公共団体の役割を明確にするとともに、その負うべき責務を求めている。
また、同時に、図書館等の関係する機関の充実が欠かせないことについても規定した。
さらに、活字文書を、視覚障害者等に提供する場合に必要な電子機器の開発やインターネットを利用する際の技術的支援、電子書籍等の制作支援、情報習得技術の支援、研究開発や人材育成等の支援等についても国や地方公共団体に総合的計画を立てるよう求めている。

このように国や地方公共団体が施策を実施する場合には、当然財政的な裏付けがなければならないが、そのことについても規定した。
また、国は、効果的な施策を実施するために、関係行政機関や書籍を提供する機関(各種図書館等)、さらには利用者や制作者による協議機関を設けて連携協力を図るための措置を講ずることとしたのである。

以上、このほど成立したいわゆる「読書バリアフリー法」について大まかに紹介したが、以下に詳細について知りたい方のために法文を掲載して置きたい。
なお、国の法律は、条番号、項番号とも漢数字が使用されているので、そのまま掲載する。

【視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律】

目次

第一章 総則(第一条―第六条)
第二章 基本計画等(第七条・第八条)
第三章 基本的施策(第九条―第十七条)
第四章 協議の場等(第十八条)
附則

第一章 総則(目的)

第一条
この法律は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の基本となる事項を定めること等により、視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化(文字・活字文化振興法(平成十七年法律第九十一号)第二条に規定する文字・活字文化をいう。)の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条
この法律において「視覚障害者等」とは、視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍(雑誌、新聞その他の刊行物を含む。以下同じ。)について、視覚による表現の認識が困難な者をいう。
2、この法律において「視覚障害者等が利用しやすい書籍」とは、点字図書、拡大図書その他の視覚障害者等がその内容を容易に認識することができる書籍をいう。
3、この法律において「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等」とは、電子書籍その他の書籍に相当する文字、音声、点字等の電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。第十一条第二項及び第十二条第二項において同じ。)であって、電子計算機等を利用して視覚障害者等がその内容を容易に認識することができるものをいう。

(基本理念)
第三条
視覚障害者等の読書環境の整備の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等が視覚障害者等の読書に係る利便性の向上に著しく資する特性を有することに鑑み、情報通信その他の分野における先端的な技術等を活用して視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の普及が図られるとともに、視覚障害者等の需要を踏まえ、引き続き、視覚障害者等が利用しやすい書籍が提供されること。
二、視覚障害者等が利用しやすい書籍及び視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等(以下「視覚障害者等が利用しやすい書籍等」という。)の量的拡充及び質の向上が図られること。
三、視覚障害者等の障害の種類及び程度に応じた配慮がなされること。

(国の責務)
第四条
国は、前条の基本理念にのっとり、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)
第五条
地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(財政上の措置等)
第六条
政府は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

第二章 基本計画等(基本計画)
第七条
文部科学大臣及び厚生労働大臣は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(以下この章において「基本計画」という。)を定めなければならない。

2、基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策についての基本的な方針
二、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三、前二号に掲げるもののほか、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3、文部科学大臣及び厚生労働大臣は、基本計画を策定しようとするときは、あらかじめ、経済産業大臣、総務大臣その他の関係行政機関の長に協議しなければならない。

4、文部科学大臣及び厚生労働大臣は、基本計画を策定しようとするときは、あらかじめ、視覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

5、文部科学大臣及び厚生労働大臣は、基本計画を策定したときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

6、前三項の規定は、基本計画の変更について準用する。

(地方公共団体の計画)
第八条
地方公共団体は、基本計画を勘案して、当該地方公共団体における視覚障害者等の読書環境の整備の状況等を踏まえ、当該地方公共団体における視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画を定めるよう努めなければならない。
2、地方公共団体は、前項の計画を定めようとするときは、あらかじめ、視覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
3、地方公共団体は、第一項の計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めなければならない。
4、前二項の規定は、第一項の計画の変更について準用する。

第三章 基本的施策
(視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等)
第九条
国及び地方公共団体は、公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館並びに学校図書館(以下「公立図書館等」という。)並びに国立国会図書館について、各々の果たすべき役割に応じ、点字図書館とも連携して、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の充実、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制の整備が行われるよう、必要な施策を講ずるものとする。
2、国及び地方公共団体は、点字図書館について、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の充実、公立図書館等に対する視覚障害者等が利用しやすい書籍等の利用に関する情報提供その他の視覚障害者等が利用しやすい書籍等を視覚障害者が十分かつ円滑に利用することができるようにするための取組の促進に必要な施策を講ずるものとする。

(インターネットを利用したサービスの提供体制の強化)
第十条
国及び地方公共団体は、視覚障害者等がインターネットを利用して全国各地に存する視覚障害者等が利用しやすい書籍等を十分かつ円滑に利用することができるようにするため、次に掲げる施策その他の必要な施策を講ずるものとする。
一、点字図書館等から著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十七条第二項又は第三項本文の規定により製作される視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等(以下「特定電子書籍等」という。)であってインターネットにより送信することができるもの及び当該点字図書館等の有する視覚障害者等が利用しやすい書籍等に関する情報の提供を受け、これらをインターネットにより視覚障害者等に提供する全国的なネットワークの運営に対する支援
二、視覚障害者等が利用しやすい書籍等に係るインターネットを利用したサービスの提供についての国立国会図書館、前号のネットワークを運営する者、公立図書館等、点字図書館及び特定電子書籍等の製作を行う者の間の連携の強化

(特定書籍及び特定電子書籍等の製作の支援)
第十一条
国及び地方公共団体は、著作権法第三十七条第一項又は第三項本文の規定により製作される視覚障害者等が利用しやすい書籍(以下「特定書籍」という。)及び特定電子書籍等の製作を支援するため、製作に係る基準の作成等のこれらの質の向上を図るための取組に対する支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
2、国は、特定書籍及び特定電子書籍等の効率的な製作を促進するため、出版を行う者(次条及び第十八条において「出版者」という。)からの特定書籍又は特定電子書籍等の製作を行う者に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するための環境の整備に必要な支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の販売等の促進等)
第十二条
国は、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の販売等が促進されるよう、技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進、著作権者と出版者との契約に関する情報提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
2、国は、書籍を購入した視覚障害者等からの求めに応じて出版者が当該書籍に係る電磁的記録の提供を行うことその他の出版者からの視覚障害者等に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に関する関係者間における検討に対する支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(外国からの視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の入手のための環境の整備)
第十三条
国は、視覚障害者等が、盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約の枠組みに基づき、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等であってインターネットにより送信することができるものを外国から十分かつ円滑に入手することができるよう、その入手に関する相談体制の整備その他のその入手のための環境の整備について必要な施策を講ずるものとする。

(端末機器等及びこれに関する情報の入手の支援)
第十四条
国及び地方公共団体は、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等を利用するための端末機器等及びこれに関する情報を視覚障害者等が入手することを支援するため、必要な施策を講ずるものとする。

(情報通信技術の習得支援)
第十五条 国及び地方公共団体は、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等を利用するに当たって必要となる情報通信技術を視覚障害者等が習得することを支援するため、講習会及び巡回指導の実施の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。

(研究開発の推進等)
第十六条
国は、視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等及びこれを利用するための端末機器等について、視覚障害者等の利便性の一層の向上を図るため、これらに係る先端的な技術等に関する研究開発の推進及びその成果の普及に必要な施策を講ずるものとする。

(人材の育成等)
第十七条
国及び地方公共団体は、特定書籍及び特定電子書籍等の製作並びに公立図書館等、国立国会図書館及び点字図書館における視覚障害者等が利用しやすい書籍等の円滑な利用のための支援に係る人材の育成、資質の向上及び確保を図るため、研修の実施の推進、広報活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。

第四章 協議の場等
第十八条
国は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の効果的な推進を図るため、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務省その他の関係行政機関の職員、国立国会図書館、公立図書館等、点字図書館、第十条第一号のネットワークを運営する者、特定書籍又は特定電子書籍等の製作を行う者、出版者、視覚障害者等その他の関係者による協議の場を設けることその他関係者の連携協力に関し必要な措置を講ずるものとする。

附 則
この法律は、公布の日から施行する。

前の新時代宝箱次の新時代宝箱