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〈新時代宝箱〉№0004 「障害の有無を調べる出生前検査の問題点」 令和元年2019年8月18日(日)

会長 伊藤 和男   


先日、生まれて来る子どもの障害の有無を調べるために、最近では出生前に遺伝子の状況を検査する人が増えているとの報道に接した。
およそ20万円かかる検査だというが、それにも関わらずわが子の実態をできるだけ早く知ろうとする親たちの心の様子が透けて見える。

この検査は、本来子どもが障害をもって生まれる前に早目に様々な準備をする目的で行われるものとの産科学会の公式見解が出されているようだが、
果たして世間の人がそのように考えるかは疑問である。
特に当事者となる親にしてみれば、誰もが五体満足な子どもを欲しているわけで、
もし生まれる前に障害のある子どもが生まれて来ると判定されたなら大きなショックに見舞われることは必定であり、堕胎を決断する人の増加が考えられる。

また、その報道では、仮に障害児を生むことを決断した親が、出生後の育児の相談を担当医師に持ちかけても、
障害児についての知識に乏しい医師には難しく、実際は戸惑ってしまうのが実態だとしていた。
私は、このニュースから、この出生前検査のあり方の不備をそのままにして置くべきではないと強く感じた。

現代社会は、種々の分野で私たちが追いつけないスピードで分化が進む時代である。
そんな中にあって今回の問題は、当然医療の産科領域だけで解決できるはずのないことは、誰にも分かる。
しかし、産科学会の見解は、その検査の必要性のみに言及しているだけで、生まれた障害児の育児や教育を、どこが責任をもって親たちに伝えていくかには触れていない。

障害児の育児について、専門外である産科学会の先生方を攻める積りはないが、できればこうした検査は、
行政等と連携して後のあり方について検討した上で実施してもらいたい。

私は、盲学校の校長時代に、千葉県子ども病院の眼科の先生方のご理解をいただいて、
校内の先生方の協力の下、月1回担当者を派遣し、失明を宣告された子どもの育児支援を行うことができた。
今回の問題も公的な支援を早く確立して、障害児の親たちが安心してわが子の尊厳を守り育てられるようにしてもらいたいものである。
そうした社会が本物のユニバーサル社会だと、私は強く思うのである。

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